「年間2000人の命が救える。やるなら今だ」増加する交通事故から人々の命を守るべく立ち上がった東大卒のチャリア

カンボジアの首都プノンペンに来るとまず目につくのは、バイクの多さだ。それに加えて、バイクで大きな荷物を運んだり、1台に何人も乗っていることも当たり前だ。

交通ルールは無いに等しく、また歩道は路上駐車で塞がれている。このような状況では、数百メートルの距離を歩くのにも危険を感じるため、わざわざタクシーやトゥクトゥク(三輪バイク)に乗って移動することもある。

首都プノンペンの道路の様子

 

経済発展とともに車の数も増えているし、建設資材を運ぶトラックや、物資輸送のためのトラックも増えている。最近は、配車アプリも導入されてタクシー需要が増え、人々はローンで車を購入し始めた。

 

車やバイクは私たちの生活に劇的な便利さをもたらしたものの、それが人命を奪う凶器となることもある。

この複雑な問題を前に、「必ず解決方法はある」と情熱を持って問題解決に取り組む青年、チャリヤ・イア(Chariya Ear)氏がいた。彼はいつも胸にRoad Safetyと書いてあるシャツを着て、爽やかにやって来る。

Mr. Chariya Ear

Institute of Road Safety(交通安全機構)のディレクター。自分自身が交通事故に遭った経験や、親戚や友人を事故で失くす経験をし、道路の安全について強い関心を持ち、東京大学で開発問題を学ぶ。帰国した2010年から、交通安全コンサルタントとして国際機関やカンボジア政府にアドバイスを行う。2014年に、Institute of Road Safetyを立ち上げる。

 

繰り返される悲劇を終わりにしたい。交通事故で帰らぬ人となった親族と友人。

交通安全について関心を持ったのは、僕が高校の時に、交通事故で足を骨折したことがきっかけでした。大怪我で2週間入院し、3ヶ月の松葉杖生活を送りました。その時、日常的に使う道路でこんなに危険なことが起きているのに、誰も何も対策していなことがおかしいと思いました。

 

その後、親族が交通事故で亡くなり、さらに大学の友達も亡くなるという悲劇が繰り返されたのです。こんなに人が死んでいるのに、そして人々も危険だと思っているのにもかかわらず、このまま誰もアクションを取らなければ犠牲者は増える一方だと思い、僕は自分でInstitute of Road Safetyを立ち上げる決意をしました。

 

交通事故による死者は、地雷による死者の50倍。年間死者2,000人以上、ケガ20,000人。

急速な発展を遂げるカンボジアでは、年々交通事故の死者が増えています。国民1,500万人に対して、死者は2,000人以上、ケガは20,000人以上です。

 

カンボジアで地雷による死者が年間40人程で、地雷除去に2,000万ドル投資されています。これに対して、年間2000人以上の死者を出している交通事故については1/10の200万ドルです。

 

幸運にもケガで済んだ人々でさえ、その多くは障がいが残り、その悲しみで精神的にも病に落ち、仕事が出来なくなってしまう人々が多いのです。

 

救える命がある。みんながそれに気がつくまで、地道な研究・教育活動は続く。

現在、交通状況のリサーチと交通安全教育をメインに活動しています。最近の成果は、工場で働く作業員の安全な通勤手段を提言し、それを実現できたことです。

カンボジアにはアディダスなどの世界的なブランドの工場があります。国際企業は、工場内の安全について注意を払っていますが、工場の外の安全については対策をしていませんでした。カンボジアでは工場で働く作業員がトラックの荷台に立って通勤する姿が日常的です。

トラックの荷台に乗って、寮から工場に通勤する工場作業員(イメージ)

 

この研究の後、アディダスなどのトップブランドは今、作業員の移動手段にも投資するようになりました。

工場作業員のより安全な交通手段についてのワークショップ

 

僕の研究は多岐に渡っています。例えば、女性にとってより安全な交通手段の研究もしました。女性はタクシーやバイクタクシーなどでハラスメントを受けることがあり、被害防止対策を研究しました。様々な研究は、海外の組織や大学と共同で行なっています。

女性にとっての安全な交通手段についてのリサーチグループ

 

教育に関しては、カンボジアの大学の学長に呼びかけて、大学での交通安全教育をするよう掛け合い、実施に至りました。その他にも、地方に出向き、講演活動をしています。

母校で卒業生として、自分の活動を後輩に伝える

 

交通安全を研究するため日本留学を目指すも6度の不合格。7回目に掴んだ東大への道。

カンボジアの道路を安全にしたいと考えて、交通インフラが整っている日本に留学しようと思いました。奨学金に応募しましたが不合格で、再チャレンジしても、また不合格。それでも諦めず試験を受け続けると、ついに7度目で合格できたのです。

 

そして、政策策定の研究に力を入れている東京大学に2006年から留学しました。

東大の学位授与式にて、最愛の妻と。

 

交通安全の研究はキャリアがないと心配した東大教授。

交通安全を研究しに日本に来たのですが、僕の教授はこの分野で仕事を見つけるのは難しいと心配していました。そして、もう少し範囲を広げて開発問題を取り上げるようアドバイスをもらいました。僕は開発問題をテーマとし、交通安全は開発問題の1つとして取り上げました。

 

4年後に帰国すると、残念ながら交通事故死は倍になっていました。それでも、交通安全分野に関する仕事はなく、僕は国際機関のプロジェクトでコンサルタントとになりました。そして、交通安全のプロジェクトがあるとコンサルタントとして参画しました。

東京大学公共政策大学院を卒業したカンボジア人と。

 

成功しないと言われても、背中を押してくれたのは、被害者の家族からの言葉。

Institute of Road Safetyを立ち上げると言った時、多くは成功しないという反応でした。道路の安全について、まだ十分な投資が行われていませんし、予算もありません。また制度面として、カンボジアでは法執行が弱いため、交通事故があっても事故後の対応が公平に行われない問題があります。

 

その一方で、熱心に支えてくれる人々もいました。支援者の多くは、家族を交通事故で失くした人々です。また、カンボジアで交通安全の専門家は私だけですから、交通事故が起きると、被害者の家族は私に連絡してきます。そして、何かできることをしたいと支援してくれるのです。

 

この社会に何が本当に大切かを考えた時、自分が高給取りになることは重要ではなかった。

日本のトップ大学である東京大学に留学し、国際機関でも働いたキャリアがあれば、高給取りになることは難しいことではありません。しかし、社会に本当に大切なことは何かを僕は考えています。

 

自分が行動することで人の命が救えることを考えれば、僕にとって高給取りになることは重要なことではありません。それよりも、多くの人々の命を防げるはずの交通事故から守りたい。そのことの方が僕にとっては大切です。

講演会活動の様子

 

まったなし。経済発展を遂げてからでは取り返せない命がたくさんある。やるなら今。

カンボジアでは交通安全に関する政策はまだありません。全体的な開発計画はありますが、その計画通りに事が進むことはありません。計画なしに開発が進むと、経済的発展は遂げたとしても、交通安全にはマイナスが大きくなります。

 

なぜなら、開発された後に、安全性を考慮した開発をしようとしても、建物があって道路は思うように作れず、コストも大きくなります。やるなら今です。このままカンボジアが経済的発展を遂げるまで、犠牲者を増やし続ける事はできません。

 

希望とは選択するもの。やり続けることで見えてきた光。僕のアイデアが国の政策に。

交通事故には必ず原因があるので、防げるものです。僕は「交通事故は必ず防げるものであるという『希望』」を持つ選択をしました。

 

この活動を続けて僕がメディアにも出るようになると、政府も僕を交通安全の専門家として政策会議に呼ぶようになりました。僕のアイデアが国の政策に反映されています。

僕は様々なアイデアを持っているので、広くシェアをしたいです。例えば、最近公共バスが走り始めました。まだ利用者が少ないのは、路線が少なすぎて、不便だからです。人々が使い出すようにするためには、さらなる投資が必要です。逆に投資しなければ利用者は伸びずに失敗します。

 

その他には、タクシーやトゥクトゥクの配車アプリについて、車体の安全性を管理するべきだと思います。カンボジアで走っている車は中古がメインですが、しっかりと点検されていないことも多々あり、整備不良による交通事故も起こっています。

 

現在、カンボジアの乗り物の85%がバイクです。しかし、政府は125cc以下のバイクについては、無免許での運転を許可しました。これは政策策定者の大きな間違いだと思います。交通安全に第一に必要なのは、交通ルールを知ること、その次にルールを守り、ルール違反を取り締まることです。免許が不要になった事で、このルールを学ぶ機会が国全体でなくなりました。

 

目に見えなくても大切なことがある。キャンペーンとしての社会貢献からの脱却を。

交通安全に十分な投資や支援がなされない大きな理由としては、成果が目立たないからです。建物や道路のように目に見えることには、キャンペーンとして大きな投資がされています。

 

でも、僕たちが忘れてはならないのは、年間2,000人以上の命が交通事故で失われ、けが人も20,000人以上で、多くの人々に障がいが残っている事実です。事故の40%はスピードの出し過ぎで、15%は飲酒運転です。これらは防げていた事故です。

 

ひき逃げの発生を防ぐためにも、誤解を解き、法に基づいた公平な事故対応が必須。

カンボジアでは、ひき逃げが多いのも事実ですが、これは人々の誤解が影響しています。事故後、運転手は市民による袋叩きの刑に遭うという間違った認識があります。これは大きな誤解です。

 

人を引いた後に逃げるから、そのような目に遇うのです。もし、運転手がしっかりと人命救助をしていれば、みんな協力してけが人を助けようとします。この誤解により、ひき逃げをした運転手がその後焦って逃走し、3人もの新たな犠牲者が出たことがありました。

 

また、加害者にお金があると罪に問われないことがありますが、このような不公平さは人々が交通ルールを守ろうとする気持ちにマイナスに働きます。交通安全には、一人一人がルールを守ることが必要なのです。

 

民間企業もCSRに交通安全を積極的に取り入れて欲しい。

バイクや車は、正しい使い方ができないと凶器となります。人々が正しい運転の仕方を知り、交通ルールを守れば、バイクや車は僕たちの生活を便利にしてくれる素晴らしいものです。民間企業、特にバイクや車を製造している企業の方々には、カンボジアのように今後車の需要が増える国での交通安全教育に、積極的な支援をお願いしたいと思います。

地方の小学校での交通安全教育

 

誰でも今すぐできることがある。変化を作るのは、ここにいる僕たち。

あなたの友達や家族に、交通安全の知識をシェアしてください。交通安全は知ることから始まります。僕はこれまで交通安全教育をしてきましたが、まだまだ足りません。

 

もし、読者の一人一人が友達や家族に交通ルールや安全な運転についての知識をシェアしてくれたら、それでも効果があります。社会の良い変化は、僕たちから始まるのです。

 

編集後記

あらゆる質問にロジカルに、かつ情熱を持って答える青年は、

熱き心と論理性を併せ持った社会の希望だ。

彼からは、交通事故ゼロは実現できるという揺るぎない思いを感じる。

仕方なかった交通事故など存在しない。

必ずゼロにできる。そういう希望を持つことを彼は「選択」したのだ。

私たち一人一人が、どういう希望を持つかが、その社会の今とこれからにつながる。

これはまさに、#valueの信念である「つくりたい社会は、自分たちでつくれる」と同じだ。

彼の希望が実現される日を私たちも見届けたい。

 

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